こんにちは。
内山公認会計士事務所の内山でございます。
今月も相続対策のお役に立つ知識を、専門家としての立場から分かりやすく解説させていただきます。
2025年7月23日、日経平均株価が急騰し終値では4万1,000円を超える水準に到達しました。背景には、日米間で合意された関税の緩和措置があり、自動車関連株を始めとして日本株全体が一気に買われたことが要因とされています。
このような株価の急上昇は、投資家にとっては資産価値の増加という意味で喜ばしい一方、株式や投資信託を多く保有されている方にとっては、相続の際に思わぬリスクとなる可能性があるのです。 そこで今回のコラムでは、「資産運用と相続」と題し、株や投資信託の相続における注意点について、専門家の視点から解説させていただきます。
相続時の評価は“相場次第”で大きく変わる

株式や投資信託の相続税評価は、現金と異なり毎日の相場で変動するため下記の様に決定します。
上場株式
1.被相続人が死亡した日の終値
2.被相続人が死亡した月の毎日の終値の平均
3.被相続人が死亡した前月の毎日の終値の平均
4.被相続人が死亡した前々月の毎日の終値の平均
上場株式の場合は上記で算出された中から最も低い金額で相続税を計算します。
一般的な投資信託
相続開始日の基準価額を基に、数量や信託財産留保額および解約手数料を考慮し評価されます。
たとえば、2025年7月23日のように株価が一時的に高騰していた場合、日本株式を中心としている投資信託であれば、そのタイミングで相続が発生すると、通常よりも高い評価額となり、結果として相続税額が大きくなってしまうのです。 これは株式だけではなく外貨や暗号通貨など毎日値動きのある資産全体に言えることです。従って、こうした相続財産評価のタイミングによる影響は、相続人にとって納税資金の準備にも関わるため注意が必要です。
分割しにくい資産は遺産分割トラブルの原因に
株式や投資信託は、現金と異なり分割が難しい資産です。たとえば一つの銘柄を複数の相続人で平等に分ける場合、以下のような問題が生じます。
・単一の投資信託を口数で分ける場合、端数の処理や分配金の取り扱いで煩雑になる
・非上場株式などは市場価格がないため、専門的な評価が必要で、分割や納税がより困難になる
また、相続人のうち一人が株をすべて相続し、他の相続人に代償金を支払う場合なども評価のタイミングによっては、相続人間で不満が出ないとも限りません。
例えば1株1000円として評価し、代償金を支払った後にその株が急騰し2000円になったら……。株を相続した相続人に不満はないでしょうが、代償金を受け取った相続人はどう思うでしょうか? 特に家族間の関係が複雑な場合には、上記などをきっかけに相続争いへ発展してしまうことも少なくありません。
相続税納税の“タイムリミット”と流動性の重要性

相続税は相続開始から10ヶ月以内に現金で納税しなければなりません。しかし、相続財産の大部分が株式や投資信託である場合、現金が不足してしまうことがあります。
その結果、評価額に見合った納税資金を確保するために、株や投信を急いで売却しなければならず、
・株価下落時に売却して損失を出す可能性がある
・譲渡益に対して所得税や住民税が課税される
・売却に時間がかかり、納税期限に間に合わないリスクがある
といった課題に直面することになります。 こうしたリスクを回避するためには、流動性の高い資産(現預金や保険金など)をあらかじめ確保しておくことが大切です。
実務で有効な対策の数々
株や投資信託の相続に備え、以下のような事前対策が考えられます。
暦年贈与の活用:毎年110万円までの贈与は非課税。数年にわたり資産を少しずつ移転することで、相続時の財産総額を抑えることが可能です。
遺言書の整備:遺産の分け方を明文化することで、遺産分割協議のトラブルを未然に防ぐことができます。これは株や投資信託に限ったものではなく、多くのケースで“争続”防止に役立つ対策となりますのでお勧めします。
保険商品の併用:生命保険を活用して現金を受け取れる仕組みを作ることで、納税資金の確保につながります。近年ではある程度高齢になってからでも加入できる一時払いタイプの保険商品もあるようですので、検討してみても良いでしょう。
非上場株式対策:同族会社の株式などはいわゆる事業承継税制の活用も積極的に行っていきたいところです。
これらの対策は単体でも効果的ですが、組み合わせることでより強固な相続プランを構築できます。
今回のまとめ

株式や投資信託による資産形成が一般化する中で、その出口戦略、つまり「相続」がますます重要になってきています。
資産を増やすことと同じくらい、それを「どう引き継ぐか」を考えることが求められる時代です。特に相場変動が激しい今のような時期には、相続のタイミングひとつで納税額が左右されることもあります。
ご自身やご家族の将来に備え、早い段階から相続を見据えた資産管理を行うことで、安心して財産を引き継ぐことができる環境が整います。
相続に関するご相談やお悩みがございましたら、どうぞお気軽にご連絡ください。 今回も最後までお読みいただきありがとうございました。