相続する側に認知症の方がいたら?

こんにちは。

内山公認会計士事務所の内山でございます。

今月も相続対策のお役に立つ知識を、専門家としての立場から分かりやすく解説させていただきます。

相続に関するご相談をお受けしていると、「被相続人の認知症により生前対策が進まなかった」というお話は非常によく耳にします。確かに、財産を遺す側の判断能力が失われてしまうと、遺言書の作成や生前贈与など、多くの選択肢が制限されてしまいます。

しかし、現代の相続で見落としてはならないのが、“相続人側にも認知症リスクがある”という現実です。
人生100年時代では、相続人である配偶者や子ども世代が70代・80代になっていることも珍しくなく、認知症の診断を受けていたり、判断能力が低下していたりするケースも増えてきました。

そして実は、相続手続きにおいて「相続人の中に判断能力が不十分な方がいる」という状況は、相続全体を大きく止めてしまう要因となります。今回はこの問題のポイントと、家族としてどう備えるべきかを専門家の視点からわかりやすくお伝えしてまいります。

目次

なぜ認知症の相続人がいると相続が進まなくなるのか?

相続でまず問題となるのが、遺産分割協議の成立です。
遺産分割協議は相続人全員の合意が必要ですが、その前提として「各自が内容を理解し、自分の意思で判断できること」が求められます。

そのため、認知症などで意思能力(判断能力)が不十分と判断される相続人がいると、協議が成立しなかったり、後から無効と判断されたりする可能性があります。

判断能力がないと見なされると起こること

・遺産分割協議が無効になる

・銀行での預貯金払戻手続きができない

・不動産の相続登記(名義変更)が進まない

・相続税の申告期限(10か月)に間に合わない

・事実上、相続手続き全体がストップする

金融機関や法務局は“形式だけ整っていればO.K.”ではなく、本人の理解能力を重要視します。そのため、たとえ家族から見て「軽度の認知症で会話は問題ない」と思われる場合でも、手続きが認められないケースは珍しくありません。

なぜ“相続人の認知症リスク”が増えているのか

相続人の認知症が増えている背景には、単なる高齢化だけではなく、社会全体の変化があります。

かつては親が亡くなる頃、子どもは壮年期でした。しかし現代では、

・晩婚化

・出産年齢の上昇

・長寿化

これらの影響により、「相続人が70代・80代」というケースが当たり前になっています。
さらに、兄弟姉妹全員が高齢であるため、一人でも認知症になっていると手続きが進まないという状況が起きやすくなっているのです。

成年後見制度を利用して手続きを進める方法

もし相続人に認知症の方がいる場合、実務で最も多く利用されるのが成年後見制度です。

成年後見制度では、家庭裁判所に申し立てを行い、認知症などで判断能力が不十分な相続人のために「成年後見人」を選任してもらいます。後見人は本人の利益を守る立場として、遺産分割協議に参加し署名・押印を行います。

制度を使うことで手続きは前に進められますが、注意点もあります。

成年後見制度を使う場合のポイント

・後見人は本人の利益を最優先するため、不利な協議案には承認しない

・手続き後も後見は継続し、本人の死亡まで管理が続く

・預金の引き出しや不動産売却などに裁判所の許可が必要になる

・専門家が後見人に就く場合は継続的な報酬が発生する

「相続手続きを前に進めるためだけに後見を使う」つもりが、結果としてご家族の生活全体に大きな制約が生じることもあるため、制度利用には慎重な判断が必要です。

遺言書がある場合は協議が不要になることも

一方で、被相続人が生前に遺言書を作成していた場合には、状況が大きく変わります。

遺言書の内容が法律的に有効であれば、原則として遺産分割協議は不要となり、遺言に従って手続きを実行できます。そのため、相続人の中に認知症の方がいても、協議が進まないという状況を避けられます。

とくに、

・不動産が複数ある

・相続人同士の関係性が薄く、距離的にも遠くに住んでいる

・相続人の年齢が高い

といったご家庭では、遺言書の有無が手続きの負担を大きく左右します。 遺言書は「遺す側の対策」であると同時に、実は「受け継ぐ側の認知症リスクへの対策」としても非常に効果的です。

家族が今できる備えとは

相続人に認知症の方がいる場合、あるいはその可能性がある場合、早めの準備が何より大切です。難しい対策ではありませんが、次のような点を意識していただくと、相続手続きが大きく変わります。

相続人側の認知症に備えるための準備

・相続人の健康・生活状況を把握しておく

・被相続人が元気なうちに遺言書を作成する

・名義や財産状況を家族で共有しておく

・後見制度を利用する可能性について話し合っておく

特に遺言書の作成は、相続人全体が高齢となる家庭において「相続を前に進めるための最善策」と言っても過言ではありません。

今回のまとめ

これまで相続対策というと、多くの方が「親の側の問題」と考えがちでした。しかし現代では相続人自身も高齢となり、判断能力の低下が相続の大きな障害となり得る時代です。

相続人に認知症の方が含まれると、各種手続きが長期化しやすくなりその結果、ご家族に大きな精神的・経済的負担が生じることも珍しくありません。

だからこそ、これからの相続では「“遺す側”と“受け継ぐ側”の両方が準備する」という視点が欠かせません。遺言書の作成や財産情報の整理、後見制度の検討など、できることはたくさんあります。

もしご家族の中に高齢の相続人がいらっしゃる場合や、相続手続きにご不安がある場合は、どうぞお気軽に当事務所へご相談ください。これまでの経験と知識をもとに、状況に最適なサポートをご提供させていただきます。 今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

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