こんにちは。
内山公認会計士事務所の内山でございます。
今月も相続対策のお役に立つ知識を、専門家としての立場から分かりやすく解説させていただきます。
8月は、お盆や夏休みでご実家へ帰省される方も多い時期です。普段はなかなか話しにくい相続のことも、ご家族が顔を合わせる機会には少し話題に上がるかもしれません。
前回7月のコラムでは、「配偶者にすべて相続させれば安心なのか」というテーマで、一次相続と二次相続をセットで考える大切さをお話ししました。
今回はその続きとして、実際に数字を使いながら、
「配偶者にすべて相続させる場合」
「子どもにも一部を相続させる場合」
で、一次相続と二次相続を合わせた税負担がどう変わるのかを見ていきたいと思います。
モデルケースで見てみましょう

今回は、次のようなご家庭を例に考えます。
お父様が亡くなり、相続人はお母様と子ども2人。相続財産は合計1億円で、内訳は自宅不動産6,000万円、預貯金4,000万円とします。
計算を分かりやすくするため、お母様にはもともとの固有財産がなく、一次相続で取得した財産も生活費などで大きく減らず、そのまま二次相続を迎えたものと仮定します。
まず確認したいのが、相続税の基礎控除です。
相続税の基礎控除は、次の式で計算します。
3,000万円+600万円×法定相続人の数
一次相続では、相続人はお母様と子ども2人の合計3人です。
3,000万円+600万円×3人=4,800万円
二次相続では、相続人は子ども2人になります。
3,000万円+600万円×2人=4,200万円
相続人が1人減ることで、基礎控除も600万円少なくなります。
なお、実際の相続税額は、財産の内容や評価方法、遺産分割の内容、各種特例の適用などによって変わります。以下の数字は、二次相続の考え方をつかむための目安としてご覧ください。
2つの分け方を比べてみましょう

実際にモデルケースとして2つの例を上げてみましたので詳しく見ていきましょう。
ケースA お母様がすべて相続する場合
まず、一次相続でお母様が1億円をすべて相続するケースです。
配偶者には税額軽減があり、配偶者が相続した財産については、1億6,000万円または法定相続分まで相続税がかからない仕組みがあります。今回の例では、一次相続でお母様が納める相続税は0円となります。
一次相続だけを見れば、これ以上ない結果に見えるかもしれません。
しかし、お母様が相続した1億円がそのまま残っていた場合、二次相続では子ども2人が1億円を相続します。
二次相続の基礎控除は4,200万円ですので、課税対象となる金額の目安は、
1億円-4,200万円=5,800万円
です。
相続税は、この5,800万円を法定相続分で取得したものとして相続税の総額を計算します。今回のケースでは、相続税の総額は770万円となります。相続税は、課税遺産総額をいったん法定相続分で分けて税額を求め、その合計額を実際の取得割合に応じて割り振る仕組みです。
したがって、ケースAは次のようになります。
一次相続:0円
二次相続:770万円
合計:770万円
ケースB お母様と子どもで分ける場合
次に、一次相続でお母様が5,000万円、子ども2人が2,500万円ずつ相続するケースです。
一次相続の基礎控除は4,800万円ですので、課税対象となる金額の目安は、
1億円-4,800万円=5,200万円
です。
この5,200万円から相続税の総額を計算すると630万円になります。相続税の総額は約630万円ですが、お母様が取得する分には配偶者の税額軽減が使えます。そのため、実際に納めるのは子ども2人の分だけとなり、合計で約315万円です。
続いて二次相続です。
お母様が相続した5,000万円がそのまま残っていた場合、基礎控除4,200万円を差し引くと、
5,000万円-4,200万円=800万円
が課税対象の目安です。この場合、二次相続の相続税総額は80万円となります。
したがって、ケースBは次のようになります。
一次相続:約315万円
二次相続:80万円
合計:約395万円
2つのケースを並べると
- お母様がすべて相続する場合……合計770万円
- お母様と子どもで分ける場合……合計約395万円
となります。
このモデルケースでは、一次相続だけならお母様がすべて相続する方が有利に見えます。しかし、二次相続まで含めると、子どもにも一部を相続させた方が、家族全体の税負担は小さくなりました。
これが、「一次相続で税金が少ないこと」と「二次相続まで含めて家族全体にとってよい形になること」は、必ずしも同じではないという意味です。
数字だけで決めないことも大切です

ここまで数字で比較しましたが、今回の結果だけを見て、「必ず子どもにも分けた方がよい」と考えるのは早計です。
最も大切なのは、残されたお母様の生活です。
日々の生活費はもちろん、将来の医療費や介護費、施設への入居費なども考えなければなりません。税金を抑えることができても、お母様の生活資金が足りなくなっては本末転倒です。
また、自宅不動産については、一定の要件を満たすと「小規模宅地等の特例」を使える場合があります。この特例が使えると土地の評価額が大きく下がり、今回のモデルケースとは税額が変わる可能性があります。特定居住用宅地等に該当する場合、一定の面積まで評価額を80%減額できる仕組みがあります。
不動産がある場合には、税金以外の点も確認が必要です。
お母様が今後も自宅に住み続けるのか。将来、その自宅を子どもの誰かが引き継ぐのか。それとも売却するのか。二次相続のときに納税に使える預貯金が残っているか。
こうした事情によって、望ましい分け方は変わります。
8月にご家族が集まる場合も、その場で「誰が何を相続するか」まで決める必要はありません。
まずは、
- 親御さんが今後どこで暮らしたいのか
- 実家を将来どうしたいのか
- 子どもに実家を引き継ぐ意思があるのか
- 預貯金や保険がどの程度あるのか
といったことを確認するだけでも十分です。
二次相続対策は、税額を最小にすることだけが目的ではありません。配偶者が安心して暮らせることと、次の相続で子どもたちが困らないことを、一緒に考えることが大切です。
今回のまとめ

今回は、1億円の財産を例に、一次相続と二次相続の税負担を比較しました。
配偶者にすべて相続させれば、一次相続の税負担を抑えられる場合があります。しかし、財産が配偶者に集中すると、二次相続で子どもたちの負担が大きくなることがあります。
一方、一次相続の段階で子どもにも一部を相続させることで、二次相続まで含めた税負担が小さくなる場合もあります。ただし、実際の判断では、配偶者の生活資金や年齢、不動産の扱い、小規模宅地等の特例、納税資金なども考えなければなりません。
二次相続対策に、誰にでも当てはまる正解はありません。
配偶者の生活を守りながら、次の相続で子どもたちが困らない形を考えること。
これが、一次相続と二次相続を通して大切にしたい視点です。
「うちの場合はどうなるのか」
「子どもにも一部を相続させた方がよいのか」
「不動産が多い場合は、どのように考えればよいのか」
このような点が気になる方は、どうぞお気軽にご相談ください。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

